新着情報
「先生だったら、自分の口に保険のCAD冠を入れますか?」歯科医師が自分には選ばない理由と、それでもこの治療が存在する本当の意味
保険で白くできる『CAD/CAM冠』があるなら、先生も自分の歯にはそれを入れているんですよね?」
診療室で、患者さんから時々このような鋭いご質問をいただくことがあります。 歯科医師として、また一人の人間として、この質問には嘘偽りなくお答えしなければなりません。
結論から申し上げます。 多くの歯科医師は、自分の歯の治療において、保険適用のCAD/CAM冠(以下、CAD冠)を選ばないことが多いのが現実です。
こう聞くと、皆様は驚かれるかもしれません。「患者には勧めるのに、自分では使わないのか?」「それは悪い治療だからなのか?」と不安に思うことでしょう。 しかし、答えは決して「CAD冠=悪」ではありません。
今回は、なぜ歯科医師自身は自分の口にCAD冠を選ばないのか。その裏にある「プロならではの判断基準」と、それでもなおCAD冠が多くの患者さんに選ばれている理由について、歯科医師の立場から包み隠さず正直にお話しします。
そもそも、CAD/CAM冠とはどんな治療か?
まず、議論の前提としてCAD冠について正しく理解しておく必要があります。 CAD/CAM冠とは、近年保険適用範囲が拡大している「白い被せ物」のことです。コンピューター上で被せ物を設計(CAD)し、専用の機械でブロックを削り出して作製(CAM)します。
従来の「銀歯」と比較した際の大きなメリットは以下の通りです。
-
審美性: 銀歯と違い白いため、口を開けた時に目立ちにくい。
-
金属アレルギー: 金属を一切使用しないため、アレルギーの心配がない。
-
費用: 保険適用のため、自費のセラミック治療に比べて安価(3割負担で数千円〜1万円程度)。
これだけ見れば、非常に魅力的な治療法です。では、なぜ歯科医師は自分自身にはこれを選ばないのでしょうか。そこには、一般の方には見えにくい「4つの医学的・長期的リスク」への懸念があるからです。
理由① 「素材の限界」耐久性と劣化の問題
歯科医師が自分にCAD冠を選ばない最大の理由は、その「素材」にあります。 「白い被せ物」とひと口に言っても、保険のCAD冠と自費のセラミックは、全く別の物質です。
CAD冠の素材は「ハイブリッドレジン」と呼ばれます。これは、セラミックの粉末とプラスチック(レジン)を混ぜ合わせたものです。分かりやすく言えば**「強化プラスチック」**です。 一方、歯科医師が自分に選ぶことの多いセラミックやジルコニアは「陶器」や「人工ダイヤモンド」に近い素材です。
プラスチックを含んでいるため、長期間口の中にあると以下のような変化が起こります。
-
吸水による劣化と変色: プラスチックはお茶碗と違い、水分を吸う性質があります。長期間使用すると、唾液や着色汚れを吸収し、黄ばみや口臭の原因になることがあります。
-
摩耗の早さ: 天然の歯よりも柔らかいため、毎日の歯磨きや咀嚼によって徐々にすり減ります。すり減ると噛み合わせの高さが変わり、顎への負担が変わってしまうリスクがあります。
-
表面の傷つきやすさ: 表面に微細な傷がつくと、そこにプラーク(細菌の塊)が付着しやすくなり、歯茎の炎症を引き起こす原因になります。
歯科医師は「一度治療した歯は、10年、20年、一生持たせたい」と強く願います。そのため、経年劣化が避けられないプラスチック素材よりも、変化しないセラミックやゴールドを選ぶのです。
理由② 「適合精度」と「二次カリエス」の恐怖
私たち歯科医師が最も恐れているのは、治療したはずの歯が再び虫歯になること(二次カリエス)です。これを防ぐために最も重要なのが、被せ物と自分の歯との境目の「適合精度(フィット感)」です。
CAD冠は機械で削り出すため、一定の精度はあります。しかし、ミクロン単位の精度を追求した場合、どうしても限界が生じます。
-
接着の難しさ: CAD冠は、化学的な接着操作が非常にデリケートです。お口の中の湿気やわずかな条件のズレで、接着力が十分に発揮されないことがあります。
-
セメントの溶解: 適合が甘いと、歯と被せ物の間のセメントが唾液で徐々に溶け出し、そこに隙間が生まれます。
このわずかな隙間から細菌が侵入し、被せ物の下で密かに虫歯が進行してしまうことを、歯科医師は経験上熟知しています。 自分の歯を守るためには、「どれだけぴったりと封鎖できるか」が命綱です。そのため、圧倒的な適合精度を誇る「ゴールド」や、歯と化学的に一体化する「セラミック」を自分には選択する傾向があります。
理由③ 噛み合わせという「破壊力」への配慮
人間の噛む力は想像以上に強力です。特に奥歯には、自分の体重と同じくらいの負荷(60kg以上)がかかることも珍しくありません。
歯科医師は日々、歯が割れたり、被せ物が壊れたりした症例を見ています。 「この噛み合わせの強さで、この場所にプラスチック素材を使うとどうなるか?」 プロの目で見ると、その予後がある程度予測できてしまうのです。
CAD冠は、強い衝撃や歯ぎしりによって「割れる」あるいは「たわむ」ことがあります。被せ物がたわむと、接着剤が剥がれ、脱離(外れること)の原因になります。 特に、大臼歯(一番奥の歯)や、食いしばりの癖がある場合、CAD冠ではその破壊力に耐えきれないケースが多々あります。
「もし自分が治療を受けるなら、夜中に割れる心配をしたくない」 そう考えるからこそ、強度と信頼性の高い材料を選びたくなるのです。
理由④ 「トータルコスト」という経済観念
最後は、金銭的な価値観の話です。 「歯科医師はお金があるから自費を選ぶんでしょう?」と思われるかもしれません。もちろん費用の問題もありますが、それ以上に**「生涯コスト」**で判断しています。
例えば、保険のCAD冠が数千円で済んだとします。しかし、5年後に変色やすり減りで作り直しになったり、その下の虫歯が悪化して神経を抜くことになったりすれば、その都度、治療費と通院の時間、そして何より「歯の寿命」が削られていきます。
一方で、今は10万円かかっても、20年以上トラブルなく機能し、歯を守ってくれるセラミックやゴールドを入れたとしたらどうでしょうか。 長い目で見れば、「再治療のリスクが低い方」が、結果的に安上がりで、身体へのダメージも少ないことを、私たちは職業柄痛感しています。
「自分の歯」という替えのきかない資産に対しては、目先の安さよりも、長期的な安全性を優先する。これが、歯科医師が自費治療を選ぶ本音の理由です。
それでも、CAD冠が「良い選択」になる場合
ここまで厳しいことを述べましたが、ではCAD冠は「選んではいけない悪い治療」なのでしょうか? 答えは NO です。決してそんなことはありません。
医療には「適材適所」があります。CAD冠は、以下のような方には非常に有用で価値のある選択肢です。
-
金属アレルギーのリスクを避けたい方: 銀歯を入れるリスクに比べれば、生体親和性の高いCAD冠は素晴らしい選択肢です。
-
費用を抑えて白くしたい方: 「今は自費治療にお金をかけられないが、銀歯はどうしても嫌だ」という場合、保険診療内で審美性を回復できる唯一の方法です。
-
噛む力がそれほど強くない歯: 小臼歯など、力が集中しにくい部位であれば、十分に機能する場合も多くあります。
-
高齢の方や過渡期の治療として: 将来的な抜歯の可能性があったり、歯の環境が変わる可能性がある場合、修理や調整がしやすいCAD冠があえて選ばれることもあります。
CAD冠の技術も年々進歩しており、強度や適合も向上しています。「絶対にダメ」なのではなく、「特徴と限界を知った上で選ぶ」ことが重要なのです。
私たちが大切にしていること
当院では、治療方法の選択において、歯科医師の考えを押し付けることはありません。 しかし、「知らずに選んで後悔する」ことだけは避けていただきたいと考えています。
「保険でできるならそれでいいや」と安易に決める前に、 「なぜ価格差があるのか」 「5年後、10年後にどうなっていたいか」 を一度考えてみてください。
「先生だったらどうしますか?」という質問をいただければ、私たちはいつでも正直にお答えします。 「私の歯の状態なら、ここは無理をしてでも自費にします」と言うかもしれませんし、「この場所なら、まずはCAD冠で様子を見ても良いと思いますよ」と言うかもしれません。
それは、商売としてではなく、あなたの歯の健康を守るパートナーとしての本音のアドバイスです。
まとめ
歯科医師が自分の口にCAD冠を選ばないことが多いのは、単なる贅沢ではありません。 **「耐久性」「細菌レベルの適合精度」「噛み合わせの安全性」**を熟知し、再治療によって歯を失うリスクを極限まで減らしたいと願う結果の選択です。
しかし、だからといってCAD冠を全否定しているわけではありません。 ご自身のライフステージ、経済状況、そしてお口の中の状態に合わせて、最適な治療を選ぶことが何より大切です。
「とりあえず保険で」ではなく、「納得して選ぶ」。 そのための判断材料として、今回の話が少しでもお役に立てば幸いです。
もし、「自分のこの歯には、結局どれがいいの?」と迷われたら、どうぞ遠慮なくご相談ください。メリットもデメリットもすべてテーブルに乗せて、一緒に最善の答えを見つけましょう。
名駅・名古屋駅の歯医者・小児歯科
- 診療時間
-
平日10:00~13:00/15:00~19:00
土日9:30~13:00/14:00~16:30
休診日水・日(隔週)・祝